「遺留分の基礎となる財産の範囲~特別受益」

Q 相続が発生したのですが、被相続人である母と同居していた長女が預金などの遺産を管理しています。遺産について話し合いを申し出ても相手にしてくれません。長女は、私の学費(私立の中高一貫校の学費、高校時代と大学時代のアメリカへの留学費用)を考えたら、割に合わないので、全てもらうと言っています。争えないのでしょうか。

A 少なくとも、法律で認められた最低限の取り分である遺留分については、取得することができます。しかし、長女が言うように、学費が特別受益に当たるのであれば、実際の取り分は学費の額を控除した額になる可能性があります。相続人は、遺留分を得る権利が法律上認められています。もっとも、特別受益を得ていた場合は、遺産に特別受益の額を加算した上で、遺留分額を計算し、遺留分侵害額は、遺留分から特別受益を控除した額となります。

 では、どのような場合に特別受益となるのでしょうか。
民法903条は、 
「共同相続⼈中に、被相続⼈から、遺贈を受け、⼜は婚姻若しくは養⼦縁組のため若しくは⽣計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続⼈が相続開始の時にお いて有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百⼆条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈⼜は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しています。

まず、遺贈の場合は、贈与された財産の全てが目的に関わりなく特別受益となります。
生前贈与の場合は、この条文で規定されているとおり、目的が、「婚姻若しくは養⼦縁組のため若しくは⽣計の資本」に限定されています。
これらに該当しそうなものとして、
 ①結婚式や披露宴の費用
 ②学費
 ③小遣いや生活費の仕送りなどがあります。
一概に名目ごとに結論が決まるのではなく、贈与を受けた時期、金額、被相続人の身分や資力など諸般の事情を考慮して、特別受益か否か判断されます。

そして、特別受益と認められた場合でも、「持戻しの免除」という論点があります。
これは、被相続人が、特別受益者の受益分の持戻しを免除できるというものです(民法903条3項)。
被相続人の持戻しの免除の意思表示があったと認められれば、特別受益に該当したとしても、特別受益を考慮して遺留分を算定することができなくなります。
今回の事例の学費も、贈与があった時期、具体的な金額、被相続人の社会的身分や資力などの諸般の事情を総合考慮して、特別受益に該当するか否か判断されます。

また、特別受益に該当したとしても、被相続人が、学費について「持戻し免除の意思表示」をしたと認められた場合には、遺留分侵害額の算定において、学費を特別受益として計算することができなくなります。

お悩みの際は、是非弁護士にご相談ください。