公正証書による遺言でも、無効になることがありますか?

Q 公正証書による遺言でも、無効になることがありますか?

A 公正証書遺言が無効になることはあります。

 

 遺言が無効になるケースとしては、主に、①遺言能力がない者によって遺言が作成された場合、②法律が定める方式を満たしていない場合が考えられます。

①遺言能力を欠く場合

 遺言能力(遺言の内容、その効果を理解できるだけの知的能力)を欠くとして公正証書遺言が無効とされた例は、裁判例でもしばしばみられます。公証人は、遺言者の知的能力について必ずしも詳細な調査をするわけではありませんから、遺言能力がないまま公正証書遺言が作成されてしまう場合がありうるのです。

 もっとも、公証人も、遺言者の知的能力について一定の注意は払っており、その上で公正証書遺言を作成するわけですから、遺言能力の不存在を立証することは必ずしも容易ではありません。そのため、遺言能力を争う場合には、遺言者の生前のカルテや介護記録のほか、遺言作成当時、またはその前後の遺言者の状態に関する証言、従前の遺言者の意向と遺言内容の整合性など、説得的な証拠の収集に努める必要があります。

②方式に違反する場合

 公正証書によって遺言を作成する場合、公証人が遺言書を綿密にチェックした上で、既定の手続に沿って遺言を作成するわけですから、方式違反によって無効になるということは確かに通常考えにくいと言われます。

 もっとも、公正証書遺言でも、方式違反によって無効となった例は複数存在します。たとえば、公正証書遺言を作るときは、公証人が遺言の「読み聞かせ」をして、遺言者の意思を口頭で確認する必要があります(民法969条2項。これを「口授」といいます。)。しかし、現実には、遺言者が発話せずただ「うなずいた」だけで公正証書遺言が作成されることがしばしばあります。

 この点、判例は「公証人の質問に対し言語をもって陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したに過ぎないときには、…口授があったものとはいえ(ない)」としており(最高裁判所昭和51年1月16日・集民117号1頁)、下級審でも「口授」を欠くとして公正証書遺言を無効とする裁判例は比較的多く存在します(たとえば、宇都宮地裁平成22年3月1日・金法1907号136頁)。

 ただし、このような「口授」の違反を立証しようとすると、実際にその場に立ち会った公証人・証人らに証言を求めるほかないことが通常です。しかし、当の公証人らも、当時の状況を明確には記憶していないことはしばしばあり、立証に窮することがありえます。