遺言の有効・無効を争うための判断材料について

遺言の有効・無効を争うための判断材料について

Q 母が亡くなった後、母が遺言を作成していたことを知りました。この遺言について遺言の効力を争うためには、一般的には、どのような資料が用いられるのでしょうか。

A まず、代表的なものでは、病院でのカルテ(診療録)が挙げられます。病院に入院されていた方の場合、カルテ(診療録)には、どういった疾患を有していたかというだけではなく、病院内でどのように過ごしていたか(看護師との間でどのような会話がなりたち、どう応答していたか)がわかる、非常に重要な資料となります。

また、医師が作成している診療の記録だけでなく、看護師等が作成している記録の部分なども重要になってきます。たとえば、看護師が、入院中の患者がどのような発言をしているかを記録している部分などは、職業上、日々のやりとりを正確に記録しているものと考えられるため、重要な証拠といえます。本人が、入院時や手術時に署名した書類なども残されていることなどもあり、そうした内容も資料の一つになると言えます。そのため、遺言能力を肯定する側、否定する側いずれであっても、病院からカルテを取得して、その内容を十分に検討することが必要になります。

診療録のなかに、認知症(長谷川式スケール(HDS-R)の試験結果が残っていることもあり、そうした場合には、認知症の度合いを示すものとして大きな資料となります。なお、認知症の試験結果については、裁判所が遺言の有効無効を判断するにあたっても、単に点数だけで判断されるのではなく、どういった項目で答えられて、どういった項目で答えられなかったのか等を具体的に検討されると言われています。

外来受診にとどまる場合は、入院ほど多くの情報が記載されていないことが通例ですが、それでも、重要な資料になることは代わりありません。

次に、有料老人ホーム等の各種記録も重要な意味を持ちます。施設入所の場合には、カルテ(診療録)ではなく、介護記録・介護日誌・サービス提供記録等といった形が残されていることが多く、それらを取得して、上記同様、内容を検討することになります。自宅で生活していた場合においては、日々の生活記録は残りにくいといえます。しかし、高齢の方の場合、介護保険に基づきデイサービスなどのさまざまな給付を受けるために、介護認定のための調査(認定調査)を経ていることが多く、認定調査に関する市役所に記録が残されていることが多いです(ただし、こうした認定調査に関する資料は、市役所ごとに保存期間が定められているため、開示請求によって入手できない場合もあります)。こうしたものも重要な資料となります。それ以外には、御本人の書いた手紙(たとえば年賀状やお礼状)、写真(たとえば旅行風景や会食風景)なども参考になると言えます。

 なお、遺言能力を争いたい側で、そもそも、被相続人がどの病院で受診していたり、入院していたのか分からないという場合がありえます。こうした場合、保険者などに、いつ、どの病院を利用していたかの履歴の開示請求するという方法等があります。

 なお、遺言の有効・無効に関する裁判所の判断は、遺言を作成していた人のそれまでの発言や、口頭で述べていた希望と、実際に作成された遺言とが整合的なものかという観点からも、裁判所は判断するとされています。したがって、上記のような資料を集めるだけでなく、特定の相続人には多く渡そうということを、相続人が考えたことが「合理的なものか」それとも「不合理なものか」に関する資料があれば、それも非常に重要になってくる場合があります。