卓話①~男女関係を巡る諸問題,特に,有責配偶者からの離婚請求~

1 事例

さて,今や3人に1人は離婚すると呼ばれる時代,離婚事件は増加をしています。

男女関係を巡っては様々な問題が生じますが,ここでは,山田太郎さんと花子さんの若夫婦がいて,夫の太郎さんが不貞行為をした,太郎さんは別の女性に傾倒してしまい花子さんとは離婚したいと思っている,二人の間には赤ちゃんがいる,という状況を想定して,どのような問題が生じるのかということについてお話ししたいと思います。

2 そもそも太郎さんは離婚できるのか。

このような場合,親権,財産分与,慰謝料,養育費,面会交流,年金分割など様々なことが問題になりますが,まず,そもそも,太郎さんは,離婚を請求することができるのか(花子さんの同意がなくとも離婚をすることができるのか)が大きな問題となります。なぜなら,太郎さんは,いわゆる「有責配偶者」,婚姻関係が破綻した又は破綻に至ろうとしている原因を作った者であるからです。

有責配偶者である太郎さんからの離婚請求は,かつては認められていませんでした。

有名な最高裁判決がありまして,いわゆる「踏んだり蹴ったり判決」というのですが,最高裁は,妻以外の女性と同棲関係にある夫からの離婚請求について、もしもこのような離婚請求が認められるとすれば,妻はまったく俗にいう「踏んだり蹴ったりである。」,このようなことは許されない,として,夫からの離婚請求を認めませんでした。

「有責配偶者からの離婚請求は認められない」,この考え方は,長らく実務を支配してきました。

しかしその後,最高裁が,従来の判例を変更し、有責配偶者からの離婚請求も許される場合があることを示しました。

事案は,長年に亘り別居をしていて,その間に未成熟の子が存在せず,妻が離婚をされても苛酷な状態におかれないというような状況にあるというものでしたが,このような事例において,最高裁は,有責配偶者からの離婚請求を認めました。

「破綻主義」というのですが,もう二人はもはやもとの夫婦に戻ることはない,婚姻関係が破綻してしまっている,このような場合には,破綻の原因が夫婦のどちらにあるのかということを過度には重視しないで,有責配偶者からの離婚請求であっても,事情によっては離婚を認めるという考え方です。

この最高裁判例の後,有責配偶者からの離婚を認める流れが出てきました。最近では,どの程度の期間別居すれば離婚が認められるのかということについても,6,7年の別居で離婚を認める高裁判決なども出てきています。

3 女性の立場からみると

ただ,このような考え方は,花子さんの立場からすると,大変辛いことです。

私は,依頼者の男女比が概ね半々なのですが,このような場合,女性の立場からみると,不貞によるダメージだけでなく,将来の不安を抱えてしまいます。

妻の側としては,子供がもし将来私学に行きたいといったらどうしよう,塾に行かせてあげられるのか,親権は絶対譲れないけれどもしっかりと子供を育ててゆくことができるのか,このような経済的な不安が大きく,おいそれと離婚に応じることなどはできません。

勿論中には,いつかは戻ってきてくれると信じて待とうとする方もいらっしゃいます。

女性の立場からすれば,財産分与や慰謝料,年金分割,養育費など,様々な観点から,少なくとも,経済的に安心できる内容の離婚条件を勝ち取る必要があるといえますね。

田 上 智 子