建築請負代金

<典型例>
工事請負人が注文主に対して、報酬(工事代金)の支払を請求する訴訟は、実務上多い類型の訴訟です。

<問題の所在>
それでは、建物が完成していなくても報酬の支払いを請求されることはあるのでしょうか。

(1)前払特約がある場合

請負契約においては、報酬の全額を完成引渡しと同時に支払うという契約を結んでいる例はほとんどありません。
通常は、着工時にいくら、棟上げのときにいくら、中間金いくら、完成引渡しのときにいくらというように、報酬を分割して支払う旨の約束がされています。
このような約束がある場合には、建物の完成・引渡前であっても、約束した時期に、約束した金額の支払いを請求することができます。

(2)注文者の側に責任があって、工事が未完成となった場合

例えば、注文主が何らの正当な理由もなく工事の続行を拒否し、請負人の工事を行わせないようにした場合など、注文主の側に責任があって工事が未完成となった場合には、請負人は、残工事を行う義務を免れ、かつ、民法536条2項によって注文者に請負代金の全額の支払いを請求することができます。
ただし、請負人が残工事を免れたことによって利益を得た場合、その額については返還をする必要があります。
例えば、本来であれば更に工事を続行し、下請代金や材料代を支出しなければならなかったのに、工事を中断したためにその支払いを免れた場合は、免れた金額を返還する必要があります。

(3)注文主の債務不履行により契約が解除され、又は契約が合意解除されたために、工事が未完成となった場合

このような場合、既に行った工事部分が独立して当事者双方に利益をもたらす場合(簡単にいえば、既に行った工事部分に「価値」がある場合)には、請負人は出来高に応じた報酬の支払いを請求することができます。

(3)請負人の債務不履行により契約が解除されたために、工事が未完成となった場合

例えば、請負人が資金繰りがつかないなどの理由により残工事を放棄してしまったために、注文主が請負契約を解除した場合などがこれにあたります。
このような場合であっても、既に行った工事に「価値」があると認められる場合には、出来高分の工事代金の支払を請求することができます。
ただしこの場合、請負人が注文主から別途損害賠償請求をされることは十分考えられます。

以上のとおり、工事が完成していなくとも、(少なくとも出来高分の)報酬の支払いを請求することができる場合は多々あります。
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