遺留分侵害額請求におけるいわゆる後継年金保険の取扱い

Q 質問

 父Aが亡くなりましたが、父の遺産の大部分はいわゆる後継年金保険であり、かつ、この保険契約上、私の兄Bのみが後継受取人として指定されていました。遺留分の侵害額請求を行うことはできるでしょうか。

A 回答

 質問のいわゆる後継年金保険は、例えば、保険契約者・被保険者(質問の父Aさん)が保険料を支払い、Aさんが年金支払期間(例えば65歳以降)に達すると、毎年又は毎月の年金支払日に年金が支払われることになり、その年金支払期間の途中でAさんが死亡した場合、保険契約で指定された後継年金受取人(質問の兄B)が、残りの年金支払期間の未払年金現価等を受領するというような保険商品です。このような保険商品にも、保険契約等により種々のものがあります。

 質問の場合、このようないわゆる後継年金保険に係る未払年金現価等の請求権が遺留分侵害額請求の対象となるかどうか、Aさんの相続財産を構成するものかどうかが問題となります。より具体的には、一般的な生命保険について、遺留分減殺請求(当時)算定の基礎とならない旨を判示した最高裁平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069ページ)の存在を前提としつつ、問題となった保険商品の保険契約の内容、例えば、保険契約の定めや保険契約者が支払った保険料と保険金の受取人(保険契約者及び後継年金受取人)が受け取る年金保険の額の間に等価性があるかどうか等を詳細に分析・検討し、未払年金現価請求権等について、①指定された後継年金受取人が自己固有の権利として取得するものか、それとも、保険契約者等から承継取得するものか、②被保険者の死亡時に初めて発生するものか、それとも、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものか、といった点から、生前の被相続人の財産を構成するものと評価できるかどうかを検討することになります。下級審の裁判例で争われた事例でも、保険契約の内容等によって、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の対象となると判断されたもの、対象とならないと判断されたものの両者が存在しています。

なお、最高裁平成16年10月29日判決(民集58巻7号1979ページ)は、一般に遺留分侵害額請求の対象とならないと理解されている養老保険契約に基づく死亡保険金請求権に関し、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」と判示しています。このことからすれば、特に、質問の事案のように、共同相続人間の不公平が問題となっている事案では、この判決に基づいて、未払年金現価等の請求権が遺留分侵害額請求の対象となる可能性も検討する必要があります。