使途不明金がある場合②

Q 亡くなった母の通帳に,多額かつ多数回の出金履歴があります。

  長男が母の預貯金口座を管理していたので,長男が引き出して使ってしまったのではない

  かと思い,長男を問いただしました。長男は,一部,自分が引き出したことは認めました

  が,母に頼まれて出金しただけで,そのままお金は母に渡したと述べています。どうした

  らよいでしょうか。

 

A 長男は「母に頼まれて」と言っていますが,そもそも,その当時(複数回の払い戻し行為

  があった場合は,その期間中)の亡母の認知能力が,財産管理をすることができる程度の

  ものであったのかが問題となります。そのため,まずは,当時の医療記録や介護記録など

  の客観的な証拠を分析する必要があります。

 

  亡母が施設に入居していた場合は,そもそも施設内で現金を所持することができなかった

  というような事情があれば,長男の「母に現金を渡した」との説明は不合理だということ

  になります(施設の利用契約などを確認する必要があります)。

 

  また,まとまった金額の払い戻しがあった場合は,現金のまま亡母に渡すのは不自然です

  から,長男が具体的な使途や別の口座への預け替えなどを説明できなければ,そのお金が

  どこに行ったのか,更に長男に説明を求める必要があります。

 

  長男が,「亡母のために使った」と述べることは多いですが,亡母の生活費の通常額,

  亡母に高額の資金を利用して物を購入する必要があったのか,当該物は遺産として残っ

  ているかなどの状況から,不自然であると言える場合があります。

  (なお,訴訟手続では,このような場合,長男の側から使途に関する資料を提出しても

  らう場合が多いです。)

 

  たとえば過去の裁判例では,過去に被相続人本人が毎月約15万円の出金をしていた事

  実が確認できたこと等から、被相続人の生活費としては多くとも20万円もあれば十分

  であったとして、それを超えて被告が出金した金額について返還を命じたものなどがあ

  ります(東京地方裁判所令和2年9月30日・判例秘書登載)。

☞参考:こちらもご覧ください。使途不明金がある場合の法的手続etc.