残業代請求

1 そもそも法律上残業代はどのように決まるのか

 残業代は,法定勤務時間(1日8時間,週40時間)を超えて(就業規則等でそれより短い勤務時間を定めている場合は,それを超えて),働かせた場合に,勤務時間に応じて払わなければなりません。
 そして,残業代は,基本となる賃金(給料から,家族手当等を除いたもの)を時給に換算して,これに残業時間を掛けて決まります。また,法定勤務時間を超える場合には,時給に25%以上の割増賃金を追加する必要があります(深夜に及ぶなどの場合には,この割合が大きくなることがあります)。
そして,勤務時間は,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」とされています(最高裁平成12年3月9日)。ですから,「能率が悪いから時間が増えた」「就業規則で勤務時間外になっている」といった主張は一般に通用しません。

2 もしも請求が来たらどうするか

 まず,残業代請求が一人の従業員からなされた場合,ほかの従業員にもその影響が波及して,多額の残業代の支払いを求められる,という可能性もあります。また,残業代の支払いが会社全体で滞っており,会社が労働者の請求を無視するような場合,労働基準監督署の調査,指導が入ることもあります。
 また,裁判まで行って敗訴した場合,残業代に加え,遅延損害金(本来払うべき日からの利子のようなものです。給料は,通常の債権より割合が高くなります)や付加金(一種のペナルティとして裁判所が支払うよう命じる金銭。通常は,残業代と同額となります。)も負担する必要が出てきます。
したがって,未払い賃金や残業代の請求を受けた場合,無視するのではなく,まずその請求に応じる必要があるか検討する必要があります。残業代は,賃金と残業時間で決まるので,まずは残業時間を把握することが欠かせません。
労働者からの請求は,残業時間の計算方法に誤りがあったり,基礎となる賃金の計算方法に誤りがあることがあるので,まずは請求内容を確認しましょう。

3 裁判では,残業時間はどうやって判断されるのか

 前述のとおり,勤務時間は,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」とされています(最高裁平成12年3月9日)。
 そして,勤務時間は通常労働者が立証すべきものです。しかし,使用者には労働時間を管理把握する義務があると理解されています。実際,厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を定め,使用者に労働時間の適正な把握を求めています。
 そのため,使用者側がタイムカード等による時間管理を行っていない場合には,労働者による立証は軽減され,業務日報のような報告書や,個人的な手帳やメール等による立証も認められることがあります。
 したがって,タイムカード等による勤務時間管理が,将来の残業代請求への備えとしては不可欠と言えます。

4 管理職に当たるという理由で残業代を払わないことができるか

 また,管理職にあたるという理由で残業代を払わなかった場合,果たしてその従業員が本当に管理職にあたるのかも検討する必要があります。
 労働基準法上「監督又は管理の地位にあるもの」には基本的に残業代を払う必要はありません。しかし,裁判上,これに当たるかは,その名称にとらわれず,以下のような要素を考慮して,経営者と一体的立場にあるかという観点から判断されています
 ・当該対象者への役職手当等の支給の有無,その手当と残業時間の関連
 ・対象者の勤怠管理の有無・程度
 ・職務の内容
 ・部下に対する労務管理の決定権,部下の人事考課や機密事項に接しているか否か
 そして,裁判で争われる場合,管理職であると認められない可能性も大いにあります。したがって,以上のような事実を踏まえて検討する必要があります。

5 給料に残業代が含まれているということはできるか

 一部の会社では,基本給に残業代を含めることにしていたり,残業代相当額の手当を定額で支給していることもあるかと思われます。
判例上は,残業代に相当する部分が基本給等と明確に区別できる場合に限り,残業代の支給として有効とされています(もっとも,手当の性質が残業代か否かも争われることがありますので,注意が必要です)。さらに,残業代相当の手当を支給する場合でも,労基法上支払うべき金額に満たない場合には,その差額は残業代として支払わなければなりません。
 そのため,残業代相当額の定額の手当を支給するのは,残業代請求を予防するうえでは,あまり有効な方法とは言えません。

6 そもそも,残業代請求を予防するにはどうするか

 また,残業代請求を未然に防ぐためには,タイムカード等により労働時間の計算を明確にすること,残業代の計算方法や管理職の範囲等を明確にしておくこと,労働基準法上認められた例外(フレックスタイム制や,特定の業務について労働時間を一定とみなす制度など)を活用することも有効です。そのためには,労働法規の正確な理解と,紛争となったときの見通しが必要です。そのため,理解を持った弁護士に相談することをお勧めします。