企業再編と労働契約

1.会社が合併するときの注意点

会社が合併する場合,合併後の会社は,合併前の会社の権利義務を包括的に受け継ぎますから,労働契約も当然に承継されます。

ただし,合併前の会社間で就業規則や給与体系,あるいは労働組合との労働協約が異なる場合,合併後の人事管理に支障をきたす可能性がありますので,これらの整備が必要となります。その場合には,就業規則や賃金規程を労働者に不利益に変更するような場合には,労働契約法10条を踏まえて,
①不利益の程度
②変更の必要性(合併に伴う条件統一は,必要性を認める要素になるでしょう)
③内容の相当性
④組合等との交渉状況
⑤その他の事情から内容変更の合理性を検討する必要があります。

2.事業譲渡をするとき

 事業譲渡の場合,譲渡される事業に従事する労働者との契約上の権利義務は,当然には移転せず,移転には事業譲渡における合意に加えて労働者との合意も必要になります。つまり,個別に労働者と協議等をする必要があります。

 また,それまでの就業規則と譲渡先の会社の就業規則の間の調整や,労働協約の承継(組合の同意を書面により取得する必要があります)といった問題もあります。

3.会社分割をする場合の注意点

(1)どの労働者を分割先に承継させるかで生じる問題

 会社法上の会社分割では,会社をどのように分割するかは基本的に分割計画書等で自由に決められるため,分割の対象となる事業に主として従事していた労働者が承継から排除されたり,逆に,分割の対象となる事業に主として従事していなかった労働者が,従来の仕事から切り離されて承継の対象とされたりするおそれがあります。そこで,労働契約承継法は,労働者保護の要請と円滑な分割の実現の要請とを調和させるため,会社法上の原則に一定の制約を加えています。

まず,分割の対象となる事業に主として従事する労働者については,分割計画書等に記載されていれば当然に設立会社など分割先の会社に承継されます(労働契約承継法3条)。

他方,分割の対象となる事業に主として従事する労働者につき,労働契約が分割先会社に承継されないものとされた場合には,その労働者は一定期間内に書面により異議を申し出ることができ(同第4条1項),異議を申し出たときには労働契約は分割先会社に承継されます(同4項)。

次に,分割の対象となる事業に主として従事していない労働者については,分割計画書等に記載すれば承継の対象とすることも可能ですが,このような場合,労働者には,本人が主として従事してきた仕事から切り離されるという不利益が生じます。そこで,労働契約承継法は,このような労働者も同様に異議を申し出ることができ(同5条1項),異議を申し出たときには,その労働契約は分割先の会社に承継されません(同条3項)。

もちろん,会社分割の手続によらずに労働者を設立会社等に転籍させる場合には,労働者の個別の承諾を得る必要があります。

つまり,承継される事業に主として従事する労働者は,事業と一緒に承継されるのが原則ですから,承継されないとされた場合には,異議申し出が可能です(承継されると扱われた場合は,拒否することはできません)。承継される事業に主として従事していない労働者は,承継されないのが原則ですから,承継されると扱われた場合には,異議申し出が可能です(承継されないと扱われた場合は,承継を求めることはできません)。

(2)承継の効果

会社分割がなされると,割対象となった事業に属する権利義務は,分割先会社にそのまま移転します。労働契約についても,労働協約,就業規則,個別の合意(個別の労働契約)等,従前の契約内容のまま承継されます。

この中で,就業規則が労働者に不利益に変更されるような場合には,やはり,その合理性が問われることとなります。

また,分割を行った会社に残留した労働者などについて,職務の減少等を理由とした解雇の問題が生ずることがありますが,この場合の解雇は使用者側の都合による整理解雇であると解されますから,
いわゆる整理解雇の4要件
(①経営上の必要性②解雇回避の努力③合理的な整理解雇基準④労使間の協議)を踏まえて,
その有効性が判断されることになります。