労災の認定-業務災害(業務起因性)

業務災害とは、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「傷病等」)をいいます。
この場合の保険給付は、原則として、被災した労働者等が、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に対し、所定の事項を記載した請求書を提出して行うこととされており、請求を受けた労働基準監督署長は、事実関係等を調査して、支給又は不支給の決定を行います。
業務災害として保険給付の支給決定を受けるためには、上記のように「業務上の傷病等」である必要があり、「業務起因性」、すなわち、その労働者の業務と傷病等の結果との間に、その業務に内在又は随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が認められることが必要となります。裁判でも、この「業務起因性」が認められるか否かが、大きな争点となることが多いので、この考え方の理解は重要です。

より具体的に見てみますと、例えば、労働者が、業務との関連で発生した「事故」によって負傷した場合の「業務起因性」は、その負傷の原因となった事故の際に、労働者が事業主の支配下にあったかどうかで決まることが多いとされます(「業務遂行性」の問題)。ただ、このような業務遂行性の論点は、比較的判断がしやすいといえます。
これに対し、そのような「事故」を介さずに業務との関連で疾病に罹患したかどうかが問題となる場合(いわゆる「職業病等」)があります。この場合には、そもそも、その疾病の原因が業務にあるかどうかが主な問題となってきます。また、争点化しやすい論点でもあります。
このような場合には、例えば、脳・心臓疾患(過労死)の場合や、精神障害の場合があり、いずれの場合も、疾病の原因が業務にあるかどうかを解明するに当たって、医学的専門的な知識が必要となることも多いです。
厚生労働省は、脳・心臓疾患や精神障害については、疾病の原因が業務にあると認定されるための具体的条件を、最新の医学的専門的知見を踏まえて取りまとめ、「認定基準」として行政内部の準則の形式で作成・発出しています。このような認定基準は、裁判所の判断を法的に拘束するものではありませんが、作成経緯や内容等から一定の合理性を有するものと考えられており、裁判所において業務起因性の判断が行われるに当たっても参考とされております。

労災事件を受任する弁護士は、この認定基準を念頭におきつつ、過去の裁判例の検討も踏まえて、ご相談いただく労災案件における「事実関係」をしっかりと確認し、訴訟対応を行う必要があると思います。