業務委託契約書の作成・修正・助言等

●自治体における業務委託契約
自治体の業務委託契約としては,従来より,多くの業務が民間事業者に委託されてきたところ,近年では,住民に対し直接サービスを提供する業務や,「権力的」な業務についても委託されるようになりました。

(事実上の管理等を委託する業務)
・庁舎の清掃,警備,設備の維持管理
・道路,公園等の公共施設の維持管理
・システム管理
・ホームページ,広報物の作成

(住民向けのサービスを委託する業務)
・窓口業務
・保育所,公営住宅等の施設の運営(指定管理者制度を活用することも可能ですが,業務内容によっては,業務委託の方が簡易かつ適当なこともあるかと思います)
・健康診断,地域包括支援センター,障がい者支援等の住民に対する各種福祉サービスの提供
・ごみ(一般廃棄物)回収

(「権力的」な業務)
・統計調査や計画の策定等の,政策等の前提となる業務
・自治体債権に関する,債務者への納付勧奨,債務者の調査,収納委託等
・指定管理者と締結する協定書

以上のとおり,業務委託契約が活用される領域は,きわめて幅広いといえます。

●自治体の業務委託契約の注意事項
・公金の取扱
自治体は,法律又はこれに基づく政令の特別の定めがある場合を除くほか,公金の徴収,収納,支出の権限を私人に委任し,又は私人をして行なわせてはなりません(地方自治法243条)。
この点,地方自治法施行令では,使用料,手数料,賃貸料といった歳入の徴収収納について,私人に委託することが認められていますが,委託にあたっては,委託について公示をする等,施行令所定の手続きによる必要があります(157条)。

業務委託に関しては,公金の収納・徴収や支払いに関する事務を単独で委託する場合には職員の皆様も十分意識されているかと思います。
しかし,例えば,住民向けのサービス提供を委託し,その料金等を委託業者が収受するような場合,その料金が「公金」に当たるかどうか,公金にあたる場合,施行令所定の要件を満たすか,といった点を検討しなければなりません。
また,指定管理者について,利用料金制を取ることができない(例えば,公営住宅の家賃は,利用料金制をとることができないとされています)が,使用料の徴収を指定管理者に任せたい場合には,公金徴収・収納の委託の手続きによる必要があります。

・個別の法令の定め
例えば,債権の管理回収を委託する場合,それが「法律事件」にあたるのであれば,弁護士又は弁護士法人でなければ原則としてできません(弁護士法72条。ただし,法務大臣の許可を受けた債権回収会社については,一定の要件のもとに例外が認められています。)
この点,最高裁平成22年7月20日判決では,立ち退き交渉の委任についてですが,「立ち退き合意の成否,立ち退きの時期,立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであった」ことから「法律事件」にあたるとしており,債権回収や,その他の住民等との交渉を要する業務の委託では注意が必要です。

また,契約の名称に関わらず,実際の業務において,地方公共団体が民間事業者の労働者に対して,民間事業者を介さず直接指揮命令を行ったとされる場合,それは労働者派遣事業であるとみなされ,労働者派遣法所定の措置を取らなければ,労働者派遣法に抵触する行為であると判断されることになります。

そのほか,施設管理に関する委託等では,個別の行政法により委託できる業務自体が制限されたり,委託先が限定されたりしますので,注意が必要です。

●条項
民間の業務委託契約では,以下のような条項について,よく検討する必要があるところ,これは,自治体においても同様です。
・委託業務の範囲
通常は,仕様書に記載することが多いと思われますが,契約書所定の委託料の範囲内でどこまで行うべきか,分かるように規定する必要があります。システム開発やコンサルティング,調査等の,無形の成果物が求められる業務で問題となりがちです。
・業務委託から生じた特許権や著作権等をどう処理するか
特に,技術開発や,キャラクターのデザイン,広報物の出版等については,事後の紛争につながりかねません。
・個人情報の取り扱い
自治体によっては,条例に基づきひな形を定めていることも多いかと思いますが,業務の類型ごとに,どのように個人情報を取り扱うのが適切かは異なる以上,修正の要否を常に検討する必要があります。
・解除及び損害賠償
特に,自治体の業務委託の場合,業務が継続的に提供されることや,財産の保全という観点で,自治体にとって契約継続すべきでない事情を網羅する必要があります。
・事故や災害等のリスクを,どちらがどのように負担するか
この点,「リスク対応表」を作成し,どちらのリスク負担とするか記載しただけですと,具体的な処理方法が分かりにくいといった問題につながることがあります。

● 当事務所の取扱業務
業務委託契約については,自治体において,共通のひな形によることとし,個別の業務ごとに異なる点を仕様書等で記載するという方式をとることも多いかと思います。
このような方式では,通常必要な契約条項をカバーできる,契約の管理方法を統一できると言ったメリットはありますが,個別の業務に合わせて必要となる,業務内容以外の条項が十分記載できなかったり,ひな形の条項の内ふさわしくないものが残ったりする危険があります。
 また,ひな形自体についても,法改正や自治体の事情等をふまえて定期的に見直すことが重要です。

自治体の事情や,業務の個性・目的を踏まえた条項とする上では,一般的な民間における契約と同様のリーガルチェックが有効です。