公務上の疾病の認定

1 公務上の災害の範囲

地方公務員災害補償法施行規則(以下「施行規則」という。)1条の2は,「 公務(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第八条第一項第五号に規定する一般地方独立行政法人の業務を含む。以下同じ。)上の災害の範囲は、公務に起因する負傷、障害及び死亡並びに別表第一に掲げる疾病とする」としています

 

2 施行規則別表第一第1号(公務上の負傷に起因する疾病)

そして,地方公務員災害補償法施行規則別表第一第1号は,「公務上の負傷に起因する疾病」を挙げています。

これについての公務上外の判断は,医学的に発症機序が明らかであることが多いため,比較的容易であるようですが,具体的には,以下のような場合に,公務上の負傷に起因する疾病とされます(「公務上の災害の認定基準について」平成15年9月24日地基補第153号地方公務員災害補償基金理事長通知)

 

①負傷した当時,疾病の素因を有していなかった者が,その負傷によって発症した場合

②負傷した当時,疾病の素因はあったが発症する程度でなかった者がその負傷により,

その素因が刺激されて発症した場合

③負傷した当時,疾病の素因があり,しかも早晩発症する程度であった者がその負傷により,発病の時期を著しく早めた場合

④負傷した当時,既に発症していた者が,その負傷により,その疾病を著しく増悪した場合

 

3 施行規則別表第一第2号から第9号に該当する疾病

施行規則第一第2号から第9号に該当する疾病は,医学的経験則上,公務と相当因果関係が明らかな疾病を明示したものです。当該疾病に係るそれぞれの業務に伴う有害作用の程度が当該疾病を発症させる原因となるのに足りるものであり,かつ,当該疾病が医学経験則上当該原因によって生ずる疾病に特有の症状を呈した場合は,特に反証のない限り,公務上のものとされています。

(1)  施行規則別表第一第2号に該当する疾病

物理的因子にさらされる業務に従事したため生じた次に掲げる疾病及びこれらに付随する疾病

① 紫外線にさらされる業務に従事したため生じた前眼部疾患又は皮膚疾患

② 赤外線にさらされる業務に従事したため生じた網膜火傷、白内障等の眼疾患又は皮膚疾患

③ レーザー光線にさらされる業務に従事したため生じた網膜火傷等の眼疾患又は皮膚疾患

④  マイクロ波にさらされる業務に従事したため生じた白内障等の眼疾患

⑤  基金の定める電離放射線(以下「放射線」という。)にさらされる業務に従事したため生じた急性放射線症、皮膚かいよう等の放射線皮膚障害、白内障等の放射線眼疾患、放射線肺炎、再生不良性貧血等の造血器障害、骨え死その他の放射線障害

⑥  高圧室内作業又は潜水作業に係る業務に従事したため生じた潜かん病又は潜水病

⑦  気圧の低い場所における業務に従事したため生じた高山病又は航空減圧症

⑧  暑熱な場所における業務に従事したため生じた熱中症

⑨  高熱物体を取り扱う業務に従事したため生じた熱傷

⑩  寒冷な場所における業務又は低温物体を取り扱う業務に従事したため生じた凍傷

⑪  著しい騒音を発する場所における業務に従事したため生じた難聴等の耳の疾患

⑫  超音波にさらされる業務に従事したため生じた手指等の組織え死

⑬ ①から⑫までに掲げるもののほか、物理的因子にさらされる業務に従事したため生じたことの明らかな疾病

 

(2) 施行規則別表第一第3号に該当する疾病

身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に従事したため生じた次に掲げる疾病及びこれらに付随する疾病

① 重激な業務に従事したため生じた筋肉、けん、骨若しくは関節の疾患又は内臓脱

② 重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務に従事したため生じた腰痛

③ チエンソー、ブツシユクリーナー、さく岩機等の身体に振動を与える機械器具を使用する業務に従事したため生じた手指、前腕等の末しよう循環障害、末しよう神経障害又は運動器障害

④ 電子計算機への入力を反復して行う業務その他上肢に過度の負担のかかる業務に従事したため生じた後頭部、けい部、肩甲帯、上腕、前腕又は手指の運動器障害

⑤ ①から④までに掲げるもののほか、身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に従事したため生じたことの明らかな疾病

 

 (3)施行規則別表第一第4号に該当する疾病

化学物質等にさらされる業務に従事したため生じた次に掲げる疾病及びこれらに付随する疾病

① 基金の定める単体たる化学物質又は化合物(合金を含む。)にさらされる業務に従事したため生じた疾病であつて、基金が定めるもの

② ふつ素樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂の熱分解生成物にさらされる業務に従事したため生じた眼粘膜の炎症又は気道粘膜の炎症等の呼吸器疾患

③ すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務に従事したため生じた皮膚疾患

④ たん白分解酵素にさらされる業務に従事したため生じた皮膚炎、結膜炎又は鼻炎、気管支ぜん息等の呼吸器疾患

⑤ 木材の粉じん、獣毛のじんあい等を飛散する場所における業務又は抗生物質等にさらされる業務に従事したため生じたアレルギー性の鼻炎、気管支ぜん息等の呼吸器疾患

⑥ 綿、亜麻等の粉じんを飛散する場所における業務に従事したため生じた呼吸器疾患

⑦ 石綿にさらされる業務に従事したため生じた良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚

⑧ 空気中の酸素濃度の低い場所における業務に従事したため生じた酸素欠乏症

⑨ ①から⑧までに掲げるもののほか、化学物質等にさらされる業務に従事したため生じたことの明らかな疾病

 

(4) 施行規則別表第一第5号に該当する疾病

粉じんを飛散する場所における業務に従事したため生じたじん肺症又は基金の定めるじん肺の合併症

 

(5) 施行規則別表第一第6号に該当する疾病

細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に従事したため生じた次に掲げる疾病及びこれらに付随する疾病

① 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務に従事したため生じた伝染性疾患

② 動物若しくはその死体、獣毛、革その他動物性の物又はぼろ等の古物を取り扱う業務に従事したため生じたブルセラ症、炭そ病等の伝染性疾患

③ 湿潤地における業務に従事したため生じたワイル病等のレプトスピラ症

④ 屋外における業務に従事したため生じたつつが虫病

⑤ ①から④までに掲げるもののほか、細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に従事したため生じたことの明らかな疾病

 

(6) 施行規則別表第一第7号に該当する疾病

がん原性物質又はがん原性因子にさらされる業務に従事したため生じた次に掲げる疾病及びこれらに付随する疾病

①ベンジジンにさらされる業務に従事したため生じた尿路系しゆよう

②ベータ―ナフチルアミンにさらされる業務に従事したため生じた尿路系しゆよう

③ 四―アミノジフエニルにさらされる業務に従事したため生じた尿路系しゆよう

④ 四―ニトロジフエニルにさらされる業務に従事したため生じた尿路系しゆよう

⑤ビス(クロロメチル)エーテルにさらされる業務に従事したため生じた肺がん

⑥ ベリリウムにさらされる業務に従事したため生じた肺がん

⑦ ベンゾトリクロリドにさらされる業務に従事したため生じた肺がん

⑧石綿にさらされる業務に従事したため生じた肺がん又は中皮しゆ

⑨ベンゼンにさらされる業務に従事したため生じた白血病

⑩塩化ビニルにさらされる業務に従事したため生じた肝血管肉しゆ又は肝細胞がん

⑪ オルト―トルイジンにさらされる業務に従事したため生じたぼうこうがん

⑫ 一・二―ジクロロプロパンにさらされる業務に従事したため生じた胆管がん

⑬ジクロロメタンにさらされる業務に従事したため生じた胆管がん

⑭放射線にさらされる業務に従事したため生じた白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉しゆ、甲状せんがん、多発性骨髄しゆ又は非ホジキンリンパしゆ

⑮すす、鉱物油、タール、ピツチ、アスフアルト又はパラフインにさらされる業務に従事したため生じた皮膚がん

⑯ ①から⑮までに掲げるもののほか、がん原性物質又はがん原性因子にさらされる業務に従事したため生じたことの明らかな疾病

 

(7) 施行規則別表第一第8号に該当する疾病

相当の期間にわたつて継続的に行う長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務に従事したため生じた狭心症、心筋こうそく、心停止(心臓性突然死を含む。)、心室細動等の重症の不整脈、肺そく栓症、大動脈りゆう破裂(解離性大動脈りゆうを含む。)、くも膜下出血、脳出血、脳血栓症、脳そく栓症、ラクナこうそく又は高血圧性脳症及びこれらに付随する疾病

 

(8) 施行規則別表第一第9号に該当する疾病

人の生命にかかわる事故への遭遇その他強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を伴う業務に従事したため生じた精神及び行動の障害並びにこれに付随する疾病

 

(9) 施行規則別表第一第10号に該当する疾病

前各号に掲げるもののほか、公務に起因することの明らかな疾病

 

判例上,公務起因性が認められるためには,傷病等と公務との間に条件関係(公務がなければ傷病がないこと)がなければならず,かつ,「相当因果関係」がなければならないとされています。そして,判例上,この「相当因果関係」は,当該傷病等が当該公務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって判断されています。

なお,相当因果関係の判断で,特に,基礎疾患や私生活上の原因が競合する場合の判断手法については,公務が他の原因と比べ相対的に有力な原因であるときに因果関係を認める「相対的有力原因説」と,公務が他の原因とともに共働して発症に関与していれば因果関係を認める「共働原因説」との対立があるとされていますが,行政実務では,相対的有力原因説が取られています。

 

そして,補償実務上は,以下のような疾病が「公務に起因することの明らかな疾病」に該当するとされています(平成15年9月24日地基補第153号地方公務員災害補償基金理事長通知)。

① 伝染病又は風土病に罹患する虞のある地域に出張した場合における当該伝染病又は風土病

② 健康管理上の必要により任命権者が執った措置(予防注射及び予防接種を含む。)により発生した疾病

③ 公務運営上の必要により入居が義務づけられている宿舎の不完全又は管理上の不注意により発生した疾病

④ 次に掲げる場合に発生した疾病で、勤務場所又はその附属施設の不完全又は管理上の不注意その他所属部局の責めに帰すべき事由により発生したもの

・所属部局が専用の交通機関を職員の出勤又は退勤の用に供している場合において、当該出勤又は退勤の途上にあるとき

・勤務のため、勤務開始前又は勤務終了後に施設構内で行動している場合

・休息時間又は休憩時間中に勤務場所又はその附属施設を利用している場合

⑤ 職務の遂行に伴う怨恨によって発生した疾病

⑥ 所属部局の提供する飲食物による食中毒

⑦ 上記のほか、公務と相当因果関係をもって発生したことが明らかな疾病