国賠訴訟

1 国家賠償法(公務員の職務上の違法行為による責任)
(1)基本的な枠組み
ア 自治体等が賠償義務を負う要件
国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定しています。つまり,以下の要件を満たす場合に,自治体等が賠償義務を負うこととなります。
①公権力の行使に当たる公務員の職務行為について(なお,なすべき職務行為をしない不作為も含まれます),
②故意過失により,
③違法な行為がされたことにより,
④損害が生じ,
⑤職務行為と因果関係があること
また,公共団体等の賠償義務に関しては,国家賠償法に定めるほかは民法の規定が適用されます。例えば,被害者側に過失があれば過失相殺がされ,また,時効については民法上の不法行為と同様となります。
 
イ 公務員個人の責任
民法上の不法行為においては,不法行為が使用者の事業の執行についてされた場合(例えば,会社の業務に関して社員が不法行為をした場合等)に使用者が責任を負う使用者責任(民法715条)がありますが,この場合には,社員個人も被害者に対する不法行為責任を負うのが通常です。
しかし,公務員の職務上の行為については,判例上,専ら国又は公共団体が賠償責任を負い,公務員個人は責任を負わないとされています。ただし,公務員に故意または重大な過失がある場合には,国又は公共団体から公務員個人に求償することができます(国家賠償法1条2項)。

(2)自治体で問題となりうる事件類型
ア 警察官の行為
国家賠償訴訟で問題となる警察官の行為としては,例えば,違法な逮捕,勾留がされた,取調べ,捜索等の捜査が違法に行われたといった刑事事件の被疑者に対する行為が典型的です。このほかにも,交通違反を追跡するパトカーによる交通事故に関する被害者からの国賠請求や,適切な警戒を怠ったことで犯罪が起こったとして犯罪被害者からの国賠請求,犯罪に関する報道発表による名誉棄損やプライバシー侵害を理由とする請求等も想定されます。

イ 学校事故
公立学校における,教員等の故意過失による事故としては,例えば,体育等の授業や部活動中に児童生徒がけがを負った場合,児童生徒の間で起こった事故について教員の監督責任が問われる場合,いじめによる被害防止を怠った責任が問われる場合,体罰等があります。
その行為や事故の内容は私立学校における事故と同じことが多いですが,判例上,教育活動等は「公権力の行使」にあたるとして国家賠償法が適用されています。

ウ 行政指導
国賠訴訟の判例上は,例えば,建築確認を行う際の,近隣住民との紛争を理由とする行政指導や,開発業者に対する指導要綱に基づく負担金納付の行政指導等において,行政指導が事実上の強制(行政手続法32条で禁止されています)に当たらないか,が問題となっています。

エ 違法な行政処分
地方税の違法な賦課徴収により徴収された税金相当額の賠償請求,違法な営業停止処分による営業損害の賠償請求,違法な開発許可等による環境悪化に関する慰謝料相当額の賠償請求等の損害が予想されます。
この点,判例上は,行政処分が違法であるとしても,直ちに国家賠償法上違法という評価を受けるわけではないとされており(例えば,最判平成5年3月11日は,所得税の更正処分に関して,所得を過大に認定したとしても,直ちに違法となるのではなく,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかった場合に違法となるとしています。),行政訴訟とは別の観点からの検討が求められます。

2 営造物責任
国家賠償法2条1項は,「道路,河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは,国又は公共団体は,これを賠償する責に任ずる」と規定しています。つまり,以下の要件を満たす場合に,自治体等が賠償義務(営造物責任)を負うこととなります。
  ① 道路,河川その他の公の営造物についての設置,管理の瑕疵
  ② 損害の発生
  ③ 上記瑕疵と損害の発生との間における相当因果関係

この点,民法では,「土地の工作物」の瑕疵から生じた損害の賠償責任(土地工作物責任)を定めていますが,以下のような点が異なります。

  •   ① 工作物責任は,原則として占有者が,占有者が注意を怠らなかった時は所有者が賠償責任を負うこととなりますが,営造物責任では,営造物を設置管理する自治体等が無過失責任を負います。
  •   ② 「公の営造物」は,土地工作物より幅広い物的設備が含まれます。裁判例上は,車両や飛込み台,温泉供給装置等の動産が「公の営造物」とされています。

3 当事務所の業務
(1)示談交渉(相談ないし受任)
国家賠償事件のうち,賠償義務があること自体は争わず,専ら賠償額が問題となるような場合には,示談による解決も考えられるかと思われます。
その場合であっても,損害の額,因果関係,過失相殺の要否等について検討の上,適切と認められる範囲での解決とすることが必要です。
早期にご相談いただき,弊所に委任される場合でも自治体自ら交渉する場合でも,法的な見通しを持っての交渉が重要です。

(2)訴訟
国家賠償事件は,そもそも賠償義務の有無自体が争点となることが多いこと,示談による解決が難しいことの明らかな事案も多いため,交渉等を経ずに訴訟に至ることも多いかと思われます。
交渉等を経ず訴訟に至る場合,自治体等において,事前に相手の主張等を予測して準備することは困難です。また,国家賠償訴訟では,上記のとおり,通常の不法行為と同様の判断をすべき点だけでなく,国家賠償法独自の問題を考慮すべき点,行政法規を踏まえた適法性の主張といった個別の行政法に照らした問題点等も問題となります。
早期のご相談が,迅速かつ的確な解決に資するものですので,ぜひご相談ください。

(3)その他
自治体において,損害賠償について,相手の請求額の一部ないし全部を払い解決する場合や,調停や裁判上の和解をする場合,議会の議決が必要となります。
この点,当事務所が受任する案件については,交渉や訴訟の経過や,法的見通しも踏まえ,議決を得るためのサポートについても,可能な限り対応いたします。

(4)自治体職員等の皆様へ
上記のとおり,公務員の職務上の行為については,専ら国や自治体が責任を負い,公務員個人がその相手方に直接責任を負うことはありません。
しかし,実際には,相手方が職員個人を被告とする損害賠償請求訴訟を提起することも多く,この場合,職員が個人で訴訟に対応し,原告の主張する違法行為が職務上の行為であり,責任を負わないことを主張立証する必要があります。さらに,訴訟の場合,代理人を選任しなければ,本人が期日に出頭する必要があり,期日が続くと,その負担は相当なものになります。
当事務所では,職員個人の方からのご依頼も受け付けております。もし訴えられたときはぜひご相談ください。