第1 事件類型
地方自治体が関係する訴訟としては,例えば,以下のようなものがあり得るかと思われます。
- ・道路,河川,公園,港湾等の占用許可,庁舎,学校等の目的外使用許可等の,施設の使用に関する処分の取消訴訟
- ・生活保護,障碍者手帳等の社会保障に関する処分の取消訴訟
- ・建築確認,開発許可等のまちづくりに関する処分の取消訴訟
- ・食品衛生法,風俗営業法等の営業許可に関する処分の取消訴訟
- ・情報公開,個人情報に関する,不開示決定ないし開示決定の取消訴訟
第2 注意すべき争点
1 訴えの利益
訴えの利益については,近年,裁判所は,行政処分自体の効果が消滅しても,その後の行政処分への影響等を考慮して,訴えの利益を認めることがあります。
そのため,単に行政処分の効果が消滅していることを主張するだけでなく,行政処分の存在による,その後の不利益の内容を個別具体的に検討する必要があります。
2 原告による処分の違法性の主張
この点は,個別の行政法規に照らして検討する必要がありますが,それ以外に,そもそも前提となる事実自体が争われることも多いと思われます。
その場合には,民事訴訟と同様に,双方の主張及び証拠を踏まえ,裁判所が証拠に基づき事実認定をする以上,的確な証拠提出が不可欠です。
特に,行政庁は,通常は原告側と比べ多くの証拠を有していると思われるため,容易に提出でき,また提出の必要性も高い証拠を提出しないと,それ自体が不利益な心証につながることもあります。速やか且つ丁寧な証拠の準備が必須です。
3 理由の差し替え
事案によっては,処分当時は処分理由に記載していなかったが,もともと把握していた事情を理由として追加すべき場合や,処分後に判明した事実を理由として追加すべき場合もあると思われます。
この点,判例上は,理由の差し替えについては認められることが多いですが,理由の差し替えにより処分の同一性が失われる場合(例えば,公務員の懲戒処分について理由を差し替えることは認められないと考えられています)には,差し替えが認められません。
いずれにせよ,処分理由に記載していなかった理由であっても,処分の適法性を基礎づけるものであれば,これを主張すべきかもご相談ください。
4 執行停止について
行政処分は,取消訴訟がされてもそれだけでは効力や執行は停止しませんが,申立により処分の効力や執行を停止する制度(執行停止)があります。
執行停止は,取消訴訟を適法に提起した上で,「重大な損害」を避けるための緊急の必要性がある場合に認められます(行政事件訴訟法25条2項)。ただし,本案に理由がないと見える場合や,公共の福祉に重大な影響を及ぼす時はこの限りではありません(同条4項)。
この点,実際上は,「重大な損害」の有無により結論が左右されることが多いですが,その判断は,損害の回復の困難の程度を考慮し,また,損害の性質・程度,処分の内容・性質も踏まえ判断されます。
この点,執行停止の申立ては,その性質上,審理の期間が本案と比べ短くなることが多いため,綿密な準備と,十分な打ち合わせが必要になります。早めのご相談が有効と思われます。