労働者派遣に関わる法律問題

1.労働者派遣と請負・委任の違い

企業が人材会社から労働者を受けいれる際,契約上の形式としては,労働者派遣契約という形をとる場合と,業務の請負契約や業務委託契約という形をとる場合があるかと思われます。

しかし,重要なことは,その契約の実体が,(派遣する労働者の就労について自ら指揮命令を行い,発注者(委託者)からの指揮命令を受けさせないことなど)業務そのものの請負や委任なのか,労働者を受け入れ先の企業の指揮命令の下で労働させる労働者派遣であるか否かです。

 実態が労働者派遣であるにもかかわらず,請負や業務委託といった形式をとることは「偽装請負」として,近年厳しく批判されているところです。

2.偽装請負は何が問題なのか

偽装請負においては,受け入れ企業側は,労働者を直接指揮命令するにもかかわらず,形式的には人材会社の管理・雇用下にあるなど,その監督責任が曖昧になっています。

そのため偽装請負にあっては,賃金が低く,労働災害の際にも受け入れ企業側の責任が曖昧となります。
しかも受入れ企業側は,人材会社との契約の打ち切りや変更,人材会社への解雇要望といった形で簡単に実質上の解雇手続等をとることができ,労働者保護の要請に欠ける等の様々な問題が生じます。

偽装請負は,労働者派遣法から見ても重大な問題を生むものです。
つまり,人材会社にあっては,労働者派遣事業についての許可ないし届出をしていなければその点だけでも重大な法令違反となります。
また,派遣事業の許可ないし届出をしている場合でも,労働者派遣法に規定する「派遣元事業主の講ずべき措置等」を講じていなければやはり労働者派遣法に違反することとなります。
そして,偽装請負において労働者を受け入れた企業側についても,派遣事業主以外の労働者派遣事業者から役務の提供を受けていれば労働者派遣法24条の2に違反する場合があり,又,「派遣先の講ずべき措置等」を行っていないものとしてやはり労働者派遣法に違反することになります。

さらに,実態が労働者派遣であるとみなされた場合には,労働者派遣法により,受入れ先に労働者を直接雇用する義務が発生することもあります
(労働者派遣法40条の6)。

また,例えば,人材会社が,労働者と雇用契約を結ばず,個人事業主として取り扱っているような場合等は,労働者派遣事業ではなく,職業安定法で禁止された「労働者供給事業」であると評価されることにもなりかねません。

3.区別の仕方

請負契約においては,注文者と請負人の労働者との間には何等の指揮命令関係が成立せず,又,注文者が請負人の労働者に対して監督義務を負うことは通常ないとされています。

厚生労働省は,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)によって,請負となる基準として,概ね以下のような点を挙げています。

(1) 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること。

イ) 業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
ロ) 労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
ハ) 企業における秩序の維持,確保等のための指示その他の管理を自ら行うこと。

(2) 請け負った業務を自己の業務として相手方から独立して処理すること。

イ) 業務処理に要する資金を,すべて自らの責任で調達し支弁する。
ロ) 業務処理につき,法律に規定された事業主としての責任をすべて負う。
ハ) 自己が調達する機械,設備,器材,材料,資材を利用し,又は,自らの企画や自らの専門的技術や経験に基づいて業務を処理する。

4.では,何をすべきでしょうか? 
 
まず,実体として労働者を受入先で直接指揮監督する必要があるならば,労働者派遣法を守った労働者派遣契約という形をとるか,直接受け入れ先で雇い入れるか,のいずれかの措置をとるべきです。

実態としても請負と認められたい場合には,上記の厚生労働省の基準も参考にして,就労実態に照らしても請負であると評価できるような状態を整える必要があります。例えば,派遣元は,指示管理を行う人を自ら用意する,受入先は,派遣元が労働者の管理を行っていることを確かめる,などと言ったことが考えられます。

どちらの方向をとるのか,請負であるという実態を整える場合どう整えるのか,いずれにせよ,個別の業務実態を踏まえて,
それにあった改善策をとる必要があります。

ですから,事案ごとに,弁護士に相談ください。