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国賠訴訟(国家賠償法に基づく損害賠償請求)

1 法の定め
国家賠償法は、
1条:国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2条:道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
と定めています。

2 1条の責任と2条の責任の違いについて
条文のとおり、1条は、公務員、すなわち、人の作為や不作為によって、他人(国民、住民、企業等)に損害を与えた場合の賠償責任を定める規定であり、他方、2条は、道路や河川などの物が他人に損害を与えた場合の損害賠償責任を定める規定です。
すなわち、人の違法行為を問題とするのか物の瑕疵を問題とするのかにより、1条の問題とすべきか2条の問題とすべきかが分かれますが、
例えば、ダムの事故についてみても、①大量の降雨があった場合に、洪水の調節容量が不足していたなど十分な治水機能がなかったことが問題とされる場合は2条の問題となりますが、②降雨の予測を誤った結果急激な放流をしたことが問題される場合は1条の問題となるなど、実際には微妙な場合もあります。
2条の責任は無過失責任ですが、1条は公務員の行為の違法性、故意過失の存在が問われます。

3  作為と不作為のいずれの問題とされるべきかという問題について
また、同じく公務員の違法行為が問題となるとしても、公務員の「作為」が問題とされるのか、「不作為」が問題とされるのかは、事案によって異なります。
例えば、知事から宅地建物取引業の免許を受けていた者Aが、不動産取引において顧客Xから受けた手付金を流用し、Xに損害を与えたという事例を想定しましょう。
この場合、①宅地建物取引業法所定の免許基準に適合しないにもかかわらず免許の付与をしたという「作為」が問題とされることもあれば、②免許を取消さなかったという「不作為」(いわゆる規制権限の不行使)が問題とされる場合もあります。
以上のとおり、同じ損害賠償請求についても、立論の立て方は様々です。

4 事例
なお、これまで国賠法上の責任が認められた事例としては、
(1)1条関係
・現況調査を命じられた執行官が調査の対象土地を取り違えて調査をして報告し、それに基づく競売がされてしまい、損害が発生した事案(最高裁判所平成9年7月15日判決)
・鉱山保安法に基づく監督権限を適切に行使して、粉じん発生防策の速やかな普及、実施を図るべき状況であったにもかかわらずこれを怠ったことにより、炭坑で坑内作業に従事してじん肺になり損害が発生した事案(最高裁判所平成16年4月27日判決)
(2)2条関係
・道路に穴があいていたために事故が発生した事案(最高裁判所昭和40年4月16日判決)
・信号機の設置位置が不適切で、横断歩道の歩行者を規制する意味もある信号機とは思われない状況にあったために事故が発生した事案(最高裁判所昭和48年2月16日判決)
などがあります。

5 類型別考察の必要性について
国賠訴訟は、既に多数の事案が判例・裁判例として集積されていることから、類型別のポイントが概ね把握されている状況にあります。
これらの類型のポイントを学ぶことが重要です。